無事(?)里に帰還。じーちゃんの元へ行ったら薫の君が仁王立ちで俺を待っていた。それを見たら体中の力がホッと抜けてその場にへたりこんでしまった。つか、俺、もうほとんどチャクラ残ってないんだよ。慌てて駆け寄ってきた薫の君にもたれたら、本当に力が出なくなって、体を起こすことすらできなくなった。少し休んだら力も出るだろうから待機所に連れていってほしいと言ったら、俺を背負ってくれた。涙が出そうになった。執行室を出たところで白髪で猫背の人とすれ違った。なんか声をかけてきたけど俺は無視した。俺、あんたなんか知らないもん。知らない人に話しかけられても相手しちゃ駄目って母ちゃんが言ってたもん。
つまりは俺はウサギだった。それに気付いたのは今浜と里の中間あたり、隈野に至ってからだ。山に入ってから幾人かの尾行の気配がした事で俺はそれを悟った。国事に関わってくるSランクの場合は普通任務が言い渡される前に諜報部による物見がなされる。それは必ずだ。諜報部にいたころ、俺はそういう仕事を何度か経験している。ルートやトラップ、近隣諸国の情勢、その他諸々を間違いなく調べ上げ、上層部に知らせるのだ。そしてそれを受けた上層部は、その情報を元にチームを編成し、準備を整える。なので、こんな風に幾数の尾行がつくなら単独任務なんてありえないはずだった。釈然としないものはあるけれど、こうなったら俺はうさぎらしく敵を引っ掻き回さなくてはならない。薫の君やサン・ジュスト様も知っていたかもしくは勘付いていたんだろう。だから苦無や巻物といった普通は他人にホイホイ渡すものじゃないものをくれたのだ。…………俺はものよりも忠告が欲しかったけどな。
今浜とは逆方向の那古にルートを変えながら、俺はずっと試したかった新しいトラップを所々に仕掛けていった。連鎖を組む余裕はないので単発ばかりだったが、まさか移動しながらトラップを仕込んでいるとは思わなかったようで、敵は面白いように引っかかっていった。
それで俺はちょっと油断してしまい、敵がどこの奴なのかを確かめようとトラップが発動した場所へ行った。引っかかって四肢を吹き飛ばされた敵の額宛は無印だった。ということはどこかのお抱え忍び、ということになる。もう少し調べると奥歯に自害用の毒が仕込まれてあった。無臭でほんの少し苦味のある赤い毒は毬忍びが使っていたものだと医療班にいた時に文献で見たことがある。そしてその毬は大戦時に滅び、残党が丘咲のお抱えになったと言う話をホムラのじーちゃんに聞いたことがあった。ということは、丘咲のお抱えということだ。なんで?丘咲は火の国でも、1、2を争う大大名だ。律儀で情深く、野戦では右に出るものなし、天下一の弓取りと評判でお上も一目置いている重鎮である。そのお抱え忍びがなんで木の葉をつけるのか。わかんないなあ。
ぐるぐる考えていたら、ぱぱぱと手裏剣が飛んできた。1つを取ると鍵十字だった。やっぱり毬者だ。いつの間にか囲まれていた。つか何人チームなんだよ。こんな下っ端一人に対してなに必死になってるんだよ。手裏剣だけでなく鎖釜や千本、苦無など色々降ってくるのを、俺は避けるだけで精一杯で反撃などできなかった。攻撃に鋭さはないが、上手く逃げ道を塞いでくるのできっと手練の上忍が混じっているに違いない。ウワー、こりゃ本気で死ぬかも!そこで俺はサン・ジュスト様がくれた巻物に手をかけた。封紙に「昇」としるされたそれを手渡された時に「危なくなったら開けること」と言われている。きっと口寄せかなんかの類いだと思う。俺は勢い良く封を切った。
……しかしなにも起こらない。
もしかして某かの印か契約が必要なのかと巻物を手繰って見ると(その間毬忍も何が起こるのかと見守っていた)そこにはびっしりと文字が。
エロ小説だった。
それからの事はよく覚えていない。怒りにまかせて大業を連発したような、ただひたすら逃げたような。覚えているのは白髪のエロ仙人を殺そうという思い、それだけだ。
3日間隈野山中で逃げまくり(うさぎになるのは一日で良かったのだが上手く逃げ切れなかった)もうへとへとだ。途中火影のじーちゃんの忍猿が俺を探しにきたけど、その猿も下っ端だったので俺とに一緒に逃げる羽目になった。どうせなら猿侯出せやじじい!
薫の君やお姉様方が待機所であれこれ世話を焼いてくれたが、俺は盛大にむくれていたので、足が利くようになったと同時に速攻帰った。
明日はもうサボってやる!
追記
明日は休めという連絡がじーちゃんから入った。
当たり前だよバカバカバカバカ!